日常生活の中で直接触れる機会が多い税金は、消費税です。消費者としての消費税の支払いには慣れていても、事業者としての消費税との関係については理解が難しい部分もあるでしょう。
消費税自体が複雑なため、2023年10月から導入されるインボイス制度は、消費税の適正な管理と不正やミスの防止を目的としています。インボイス制度の導入により、消費税を取り巻く状況はさらに複雑になる見込みです。この記事では、消費税の基本とインボイス制度について、分かりやすく説明します。
消費税について
消費税とは
「消費税」とは、商品やサービスの取引に対して課される税のことで、「間接税」と呼ばれます。消費者が税を支払う一方、納税義務は商品やサービスを提供した企業にあります。
日本における消費税は、1989年(平成元年)4月1日に施行され、初期の税率は3%でした。このとき、従来の物品税法から消費税法へと移行し、「物品」だけでなく「サービス」も課税対象となりました。その後、税率は5%、8%へと変化し、2019年10月には10%へ引き上げられました。この際、飲食料品や定期購読新聞に対する軽減税率が導入され、現在の消費税は複数の税率を持つ形式になっています。
消費税は「国税」の一部ですが、取引に対して課される税金として「地方消費税」も存在します。地方消費税は都道府県や市町村に納付され、国が徴収した後に地方に分配されます。地方消費税が消費税に含まれるようになったのは、1997年の税率引き上げ時からです。現在の標準税率10%の内訳は、消費税率7.8%と地方消費税率2.2%で、軽減税率8%の場合は消費税率6.24%と地方消費税率1.76%となります。
消費税の仕組み
消費者は、商品を購入する際やサービスを受ける際に、代金に加えて消費税を支払います。この消費税は、事業者によって預かられ、事業者が仕入れや経費に支払った消費税を差し引いた後の差額が納税されます。つまり、消費税は事業者を経由するだけで、基本的には事業者がその負担をすることはありません。しかし、売上と仕入れのバランスや輸出の売上など、さまざまな要因で「徴収と納税が同額」にはならない場合が多々あります。
納税は、消費税の納税義務がある事業者が計算した税額を、事業年度終了後2か月以内に所轄の税務署に申告・納付することになります。法人の場合、この期限が適用されます。また、消費税には「中間納付」という制度もあります。この制度は、前年度の地方消費税を含まない消費税額が48万円を超えた場合に適用されます。
消費税の納税義務が発生する事業者について
実際に消費税の納税義務が発生するのは、特定の条件を満たす事業者に限定されます。主な条件は「課税期間の基準期間において、課税売上高が1,000万円を超える事業者」です。
消費税の納税義務がある事業者を「消費税納税義務者」(課税事業者)と呼びます。これに該当すると、法人・個人事業主を問わず消費税の納税義務が生じます。該当しない場合は納税の必要がありません。納税義務のない事業者は「免税事業者」と呼ばれます。
「課税売上高」とは国内の課税対象売上を指します。基準期間は課税期間の前々年度で、2期前の売上が1,000万円を超えると課税事業者となります。新規開業時やその次の年度は通常納税が免除されますが、資本金が1,000万円以上の場合や特定期間の売上が1,000万円を超えた場合は納税義務が生じます。
「消費税課税事業者選択届」を提出すれば、自ら消費税納税義務者になることも可能です。
インボイス制度の導入も予定されており、その詳細は後で説明します。
消費税の課税事業者選択:メリットと注意点
消費税に関する選択についての説明を簡潔にまとめると、以下のようになります。
通常、消費税の免税事業者は売上にかかる消費税を納める必要がありませんが、仕入や設備投資で支払った消費税が売上で得た消費税を上回る場合、課税事業者になる選択が有利になることがあります。この場合、事業者は収集した消費税と支払った消費税の差額を納税することになり、課税事業者として申告すれば、支払い超過分の消費税を還付してもらえます。
ただし、免税事業者から課税事業者への変更は、最低2年間は元に戻せません。そのため、変更を考える際は、将来の財務状況を見極め、税理士に相談するなど慎重に決定する必要があります。課税事業者になる場合は、事業年度が始まる前日までに所轄の税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出することが必要です。
消費税がかかる取引の区分について
消費税が課されるものと、課されないものの具体例
取引の種類によって、消費税が課されるものと課されないものが分かれます。
消費税が課されるものについて
法人の場合、商品の仕入れには消費税が含まれています。また、自社が提供する商品やサービスの売上にも消費税が加算されます。たとえば、事務手数料はサービスとしての事務作業に対する手数料で、これには消費税が加えられます。
消費税が課されないもの
消費税が課されない取引には、「不課税取引」「非課税取引」「免税取引」の3種類があります。
- 不課税取引: 消費税を課税する条件に該当しない取引です。例えば、社員への給与・賃金の支払い、株式の配当金や出資分配金の受取、保険料の受取などが含まれます。これらは消費行動には該当しないため、不課税取引とされます。
- 非課税取引: 消費税を課すべき条件に当てはまりながらも、消費税を課すことが不適切とされる取引です。例としては、預貯金の利子、小切手やプリペイドカードの購入費用、土地の譲渡などがあります。また、社会保険医療や埋葬料、介護保険サービスの提供・助産なども非課税取引です。
不課税と非課税の違いは、消費税の課税対象外の取引が不課税、元々は課税対象だが例外で非課税とされる取引です。
- 免税取引: 国外で発生した取引による利益は免税取引にあたります。例えば、車や半導体などの電子部品を国外に輸出して得た利益がこれに該当します。国外での消費行動による利益であるため、消費税は課されません。
場合によっては課税対象になる取引
例として、賃貸の違約金が挙げられます。通常、この違約金は不課税取引ですが、例外的な状況では課税対象になることがあります。たとえば、賃借人が明け渡しに時間を要した結果、その間賃貸物件を事務所として利用していた場合、これは消費行動に該当するため、消費税が課される可能性があります。
不課税や非課税取引でも、特定の条件下では消費行動と見なされることがあるため、課税対象となる場合もあります。このような状況では、通常と異なる税務上の扱いが必要になることから、注意が必要です。
法人消費税の計算方法
法人消費税の計算方法は、原則課税方式(一般課税)と簡易課税方式の2つに分けられます。
原則課税方式
原則課税方式では、預かった消費税から支払った消費税を差し引いた差額を納税します。これは「売上の中の消費税 – 仕入にかかった消費税 = 納める消費税」という形で計算されます。
例えば、税込9,900円で仕入れた商品を税込11,000円で販売する場合、計算は以下のようになります。
- 売上に関する消費税額:1,000円(課税売上高10,000円)
- 仕入に関する消費税額:900円(課税仕入高9,000円)
- 納税する消費税額:1,000円 – 900円 = 100円
しかし、実際の法人取引では、取引額が大きくなるため計算はより複雑になります。また、販売費や一般管理費に関する消費税も考慮する必要があります。
- 販売費:商品の販売やサービス提供にかかる経費(従業員の給与、宣伝広告費、発送費など)
- 一般管理費:会社の一般管理業務に必要な経費(人件費、家賃、水道光熱費など)
原則課税方式のメリットは、課税仕入が多い年に消費税の還付を受けられる可能性があることです。デメリットは、消費税の計算と集計が複雑である点です。多くの取引がある場合、自動集計ソフトなどの導入が必要になる場合があります。
簡易課税方式
簡易課税方式は、課税売上高が5,000万円以下の事業者に適用されます。この方式では、課税仕入高の計算と集計が不要で、納税額の計算が簡単になります。
この方式の計算方法は、課税売上高の合計を6つの取引種類ごとに分類し、それぞれにみなし仕入率を適用して課税仕入高を算出します。みなし仕入率は、特定の事業に通常必要とされる費用の割合を示しており、各事業の実際の経費に基づく予測値です。この率は会社の事業内容ではなく、各取引によって異なります。そのため、各取引がどの事業カテゴリーに属するかを正確に理解しておくことが重要です。これを怠ると、実際よりも低い税率が適用される可能性があります。
簡易課税方式の利点は、計算が簡単であり、特に小規模な事業者にとっては会計処理の負担が軽減されることです。しかし、みなし仕入率が実際の仕入高よりも低い場合、実際の経費よりも少ない額しか控除できないため、税負担が重くなる可能性もあります。
みなし仕入比率表
事業区分 | みなし仕入率 | 該当する事業 |
---|---|---|
第一種事業 | 90% | (卸売業) |
第二種事業 | 80% | (小売業等)小売業、農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) |
第三種事業 | 70% | (製造業等)農林漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、建築業、製造業など |
第四種事業 | 60% | (その他)飲食店業など |
第五種事業 | 50% | (サービス業等)運輸・通信業、金融・保険業、サービス業 |
第六種事業 | 40% | 不動産業 |
簡易課税方式を選択する場合、消費税の課税期間が始まる前日までに選択届を提出する必要があります。一度選択すると、選択の不適用届を提出するまで簡易課税事業者となります。課税売上高が5,000万円を超えると翌々年から原則課税方式が適用されますが、売上が再び5,000万円以下になれば簡易課税が再適用されます。
簡易課税方式のメリットは、計算が簡単で事務作業が軽減されることです。売上予測が立てば納税額の予測も容易で、場合によっては納税額が少なくなることもあります。
デメリットとしては、複数の事業を運営している場合、課税売上を区分していないと最低のみなし仕入率が適用されることがあります。また、業種ごとに異なるみなし仕入率を計算する必要があり、複数の事業がある場合は事務作業が煩雑になる可能性があります。
インボイス制度ついて
事業者であれば2023年10月1日からスタートする「インボイス制度」が気になるところではないでしょうか。課税事業者・免税事業者それぞれにどのような影響が出るのかを解説していきます。
インボイス制度とは
「インボイス制度」は、正式名称を「適格請求書等保存方式」と言い、2023年10月1日から消費税の課税事業者を対象にスタートする、新たな制度のことです。
そもそもインボイスとは「適格請求書」を意味します。これは、売り手が買い手に対し、適用税率や消費税額などを正確に伝えるため作成される、請求書・納品書・領収書などの書類のことを言います。
多くの場合、現在使用されている請求書には、適用税率や消費税額を記載していないのではないでしょうか。しかし、インボイス制度ではこれらの書類に記載すべき事項が新たに追加され、「税率ごとに合計した対価の額および適用税率」や「消費税額」などの記載が義務付けられます。
インボイス制度が導入される背景には、消費税率の変更が挙げられます。
現在ほとんどの商品には10%の税率が適用されています。しかし、「酒類・外食を除く飲食料品」や「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」など、8%の軽減税率が適用されているものもあります。2つの税率が混在しているため、従来の請求書や領収書などは、「どの商品がどの税率なのか」「消費税額はいくらなのか」などを一目で把握しにくいものになっています。
事業者が取引の正確な消費税額・消費税率を把握するために、これらの項目を記載した適格請求書を発行する制度として、導入することが決定されました。
インボイス制度の導入による変化
では、インボイス制度が導入されることによってどのような変化があるのでしょうか。インボイス制度が導入されることにより、大きく変わるのが「仕入税額控除」の条件です。
仕入税額控除とは、消費税を重複して支払うことがないように、仕入でかかった消費税を控除する制度のことです。上記で説明した、消費者から預かった消費税から、仕入にかかった消費税を差し引くことを指します。現在は取引先が発行した請求書さえあれば、仕入税額控除を受けられるようになっています。しかし、インボイス制度が導入されると、従来の請求書ではなく新たにスタートする適格請求書を用いて控除申請を行うことになります。
適格請求書を発行できるのは、消費税の課税事業者のみになります。免税事業者の場合、適格請求書に必要な登録番号を発行してもらえません。そのため、これまでと同じ請求書を使用することになります。課税・免税事業者は、それぞれ異なった形でインボイス制度の影響を受けることになるため、各々異なる対策を検討する必要があります。
インボイス制度の導入による影響
課税事業者の場合
インボイス制度が適用されるのは、主に課税売上高が1,000万円以上の課税事業者です。課税事業者が仕入税額控除を受けるためには、まず適格請求書の発行が認められた「適格請求書発行事業者」の登録番号を取得する必要があります。
インボイス制度が開始した際に、適格請求書発行事業者の登録申請をしていないと、適格請求書を発行できないので注意しましょう。
インボイス制度のメリットとしては、電子データ形式の適格請求書(電子インボイス)の送付や保管が認められていることが挙げられます。これにより、請求書の印刷・郵送費用の削減や発送業務の効率化、保管スペースの削減などが見込まれます。
適格請求書発行事業者は、取引を行ったら必ず適格請求書を交付することになります。また、受け取った適格請求書は一定の期間保存しておく必要があります。電子インボイスを活用できれば、便利になりそうですね。
デメリットとして、経理業務が煩雑になる恐れがあります。インボイスの交付と写しの保存や、受領した適格請求書の保存、適格返還請求書の交付などの業務が新たに発生するためです。また請求書のフォーマットを現行の形式と変える必要があるため、導入直後はトラブルが発生する可能性もあります。
また、免税事業者はインボイスの発行を行っていない事業者との取引では、仕入税額控除が受けられません。免税事業者との取引が多い場合、取引先の見直しが必要になる可能性があります。
免税事業者の場合
課税売上高が1,000万円未満の免税事業者はインボイス制度が適用されません。
免税事業者はこれまでと同じ請求書等を使用できます。免税事業者同士の取引の場合であれば、今までと特に変わりはありませんが、課税事業者との取引の場合は内容や請求額の設定などで、これまでとは違う対応を迫られる可能性があります。
インボイス制度は、免税事業者にとってはデメリットが多い制度だと言えます。
免税事業者が発行する従来の請求書では、課税事業者が仕入税額控除に使用することができなくなります。そのため、課税事業者は経費削減のため、取引相手を免税事業者ではなく、課税事業者に絞る可能性も考えられます。また免税事業者側からは、課税事業者に対して消費税分を上乗せした額を請求しづらくなる可能性もあります。場合によっては、料金の見直しをしなければならないケースもあるかもしれません。
現在課税事業者との取引が多い場合は、自らも課税事業者になった方が取引が減少する危険性は回避できるかもしれません。しかしその場合、免税事業者である恩恵は受けられなくなります。消費税免税のメリットを優先させるのか、取引減少のリスク回避を優先するのか、インボイス制度がスタートするまでに対応を検討しておきましょう。
まとめ
消費税の計算は複雑で、業種によっては自己計算が困難です。原則課税方式と簡易課税方式の選択ミスや届出忘れにより、過剰な納税や還付機会の喪失が起こることがあります。
軽減税率やインボイス制度による計算の複雑化が予想されるため、税理士などの専門家に依頼することが安心です。手間がかかり正確性に不安がある作業は、コストがかかっても専門家に任せる方が効率的かもしれません。
とはいえ、できるだけコストは抑えたいというのが経営者の悩みだと思います。
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