役員報酬の決め方 〜知っておくべきルールと注意点〜

会社を設立した際、経営者を悩ませることの1つに「役員報酬をいくらにするか」が挙げられます。今まで雇用される側だった場合、「役員報酬」は馴染みがない響きではないでしょうか。役員報酬とは、会社役員に支給される報酬のことで、被雇用者における給与に相当します。経営をしていくうえでしっておきたい役員報酬の基礎知識に加え、最適な役員報酬の決め方や、注意すべきポイントをわかりやすく解説します。

役員報酬とは

役員報酬とは、取締役や監査役などの役員に支払う報酬のことを指します。わかりやすくいうと「役員の給与」です。給与とは、雇用契約を結んだ従業員に支払われます。役員の会社との契約形態は雇用契約ではなく委任契約のため、「給与」ではなく「報酬」という形で支払われることになります。

役員報酬の種類

会社が役員に支払うお金のうち役員報酬には、以下の3つの種類があります。

1つは、毎月同額の役員報酬を支払う「定期同額給与」、1つは役員の賞与に相当する「事前確定届出給与」、もう1つは業績に連動して報酬が発生する「業績連動給与」になります。

定期同額給与

50万円や100万円など金額を設定し、毎月同じ額を支払う役員報酬です。役員報酬は、原則として定期同額給与で支払うこととされています。定期同額給与は、事業年度開始から3か月以内に役員報酬の金額を決定する必要があります。株式会社なら、「株主総会議事録」または「取締役会議事録」を作成・保管した後、年度中は毎月同じ額の給与を定期同額給与として支給し続けます。

しかし、ずっと同額のままというわけではなく1年ごとに変更ができます。金額を変更する場合も、新しい事業年度が始まってから3か月以内に決定しなければなりません。

事前確定届出給与

定期同額給与は役員の給与であるのに対し、「事前確定届出給与」は役員の賞与にあたるものです。役員には一般従業員に対して支払われるような賞与はありません。

業績連動給与

業績連動給与とは、業績に応じて支払われる役員報酬です。以前は「利益連動給与」という呼び名でしたが、平成29年の税制改正により「業績連動給与」と変更されました。

基本的に業績連動給与を支払えるのは、有価証券報告書を提出しているような「上場企業」に限られます。

業績連動給与を支給するためには、次の要件を満たす必要があります。

  • その事業年度の利益に関する指標(有価証券報告書に記載されるものに限る)を基礎とした、客観的な算定がされていること。
  • 利益が確定した後、1か月以内に支払われた、または支払われる見込みであること

中小企業の大多数は同族会社であり、業績連動給与の対象とはなりません。非上場の会社が業績連動給与を支給するのは難しく、「定期同額給与」か「事前確定届出給与」のいずれかしか使えないと認識しておくと良いでしょう。

役員報酬額を決定する時期

創業1年目の場合は会社設立時から3か月以内、2期目以降も事業年度開始から3か月以内に役員報酬額を決定する必要があります。

また、事業年度開始から3か月以内であれば、報酬額を変更することも可能です。原則として、決定した役員報酬額は1年間変更しないため、しっかりと資金計画を立ててから役員報酬額を決定するようにしましょう。

役員報酬の決め方

役員報酬を決める手順は、株主総会の決議、取締役会の決議、税務署への申請のながれが基本です。

役員報酬は「定款または株主総会の決議によって定める」

会社法では、役員報酬は「定款または株主総会の決議によって定める」となっています。中小企業や小規模法人では役員報酬について定款に定めていないことがおおく、定款に記載があっても「株主総会の決議で決める」としていることがほとんどです。

実務上は株主総会で役員報酬の総額のみを決めて、個々の役員の報酬は取締役会または代表取締役で決めるよう一任されることがおおいようです。

役員報酬の平均相場

役員報酬は会社の規模や経営状況、社員の給与なども鑑みたうえで決定する必要があります。実際に役員が得ている報酬額の平均相場をしっておくと、自社の役員報酬を決定するさいの目安になります。国税庁の「平成30年分民間給与実態統計調査結果」では、資本金2,000万円未満の役員報酬は605万円、2,000万円以上の企業では851万円との結果が出ています。

資本金が高くなり、会社の規模が大きくなればなるほど役員報酬もあがりますが、資本金2,000万円未満の企業の役員報酬は、一般的な年収と比較してもそこまで驚くような額ではありません。相場をしったうえで役員報酬の金額を決定すると、非現実的な金額を設定することなく、堅実な判断がしやすくなります。

役員報酬を決める際の注意点

役員報酬を決める際には、以下の6つの点に注意しましょう。

1)会社と個人の負担する税金のバランスを考慮する

役員報酬を決めるときは、税負担のバランスを考えることが重要です。会社には、法人税や法人事業税などさまざまな税金がかかります。納税額は会社の利益に対して課せられるため、損金算入する役員報酬額がおおければおおいほど、利益が減る分支払う税金の額は少なくなります。

個人の所得に課せられる税金には、所得税と住民税があります。個人で納める所得税は累進課税のため、所得が増えれば増えるほど税の負担は大きくなります。会社と個人のどちらがどのくらい税金を負担するのか、バランスを考慮しつつ役員報酬を決定することで、節税につながります。

2)役員報酬額と社会保険料額の兼ね合いをみる

役員報酬がおおいほど、個人の所得が増えるため、社会保険料の負担も大きくなります。社会保険にかんしては労使折半のため、役員報酬が増えると個人の負担が増えるだけではなく、会社側の負担も増えることになります。税金同様、社会保険料についても法人・個人の支出金額を比較してバランスを考慮しましょう。

3)同業他社との比較検討をする

役員報酬が同業、または同規模の他社と比べて極端に高いと、不相当と見なされてしまう可能性があります。この場合、損金計上が認められず税金の負担が大きくなってしまう恐れもあります。

4)会社の損益や社員の給与とのバランスも把握しておく

役員報酬が企業の経営状況を逼迫させてしまうようなことは避けなければいけません。金額を決定する際には前年度の経営状況や今後の予測をもとに、慎重に判断しましょう。

社員の給与と役員報酬の金額がかけ離れていると社員からの不満が出やすくなってしまいます。とんでもない格差をつけることは避けるべきですが、役員の職責の重さも考慮し、誰もが納得できる金額を設定する必要があります。一般的には格差が20倍を超えると不満が生じやすくなるといわれていますが、会社の規模にもよるため、常識の範囲で検討するようにしましょう。

5)早い段階でできるだけ正確な資金計画を立てる

役員報酬の金額が変更可能なのは、事業年度開始から3か月以内になります。一度決定した役員報酬は、原則1年間は変更できません。そのため、最適な役員報酬額を設定するには、1年間の売上金額や粗利益、人件費や家賃等の固定費など、収入と支出をできるだけ正確に予測する必要があります。

定期同額給与は毎月固定額の支払いになるため、あまり無理な金額設定にしてしまうと、会社の資金繰りに注意が必要です。反対に、あまりに役員報酬額が少なくても、会社の利益がおおいと判断され多額の税金を負担することになります。こうした事態を避けるためにも、より正確にそして早い段階での資金計画を立てることが重要です。

6)損金不算入とならないようにする

役員報酬を損金とするためには、守るべきルールがあります。ルールを守れず役員報酬が損金不算入となると、法人税などに大きな影響を及ぼします。特に、事前確定届出給与は、あらかじめ定められた期限内に税務署に届出をしない場合、損金として認められないため注意しましょう。

会社を設立して間も無く、役員報酬額についてすぐには決められない場合には、役員報酬は会社設立後3か月以内で決められます。この期日内には必ず届出が必要です。どうしても判断がつかない場合、税理士に相談したり、役員報酬のシミュレーションサービスを利用したりすることも有効です。

覚えておきたいのは、役員報酬には日割計算という概念がないことです。会社設立が月半ばだったからといって、本来100万円にする予定だった役員報酬を半額の50 万円支払ってしまうと、翌月以降から100万円を支払った場合に50万円は「増額分」として扱われることになります。増額分は損金参入できないため、年間で550万円も損金不算入になってしまいます。月の途中で会社が設立され、稼働日数が少ない場合でも全額支給するか、翌月からの支給にするようにするとよいでしょう

まとめ

役員報酬について知っておくべき知識や、注意点をご紹介しました。

役員報酬に関しては、会社と個人の税金負担のバランスを取って無駄を省くことが重要になります。

ぜひ注意点と覚えておきたいことを参考にしながら、自社に最適な役員報酬額を検討してみてください。