毎年年末になると、企業では年末調整が行われます。しかし、その役割や手続きの内容を詳しく理解している方は意外と少ないかもしれません。一人法人や、従業員が少ない小規模法人の場合、経理や総務の担当者だけではなく、経営者も年末調整についての知識を持っておくことが大切です。この記事では、年末調整の目的や流れなど会社が行う内容と、一人法人でも年末調整が必要な理由についてなどを詳しく解説していきます。
年末調整とは
毎年年末が近づくと、多くの会社で経理スタッフなどが「年末調整」の用紙を配る光景が見られるのではないでしょうか。年末調整はもう慣れたものだという方もいれば、未だによくわからないと戸惑う方もいるかもしれません。
そもそも年末調整とは?
そもそも年末調整とは何のために行われているのでしょうか。
年末調整とは、企業が従業員の給与などから毎月天引きした所得税と、本来支払うべき所得税の金額を調整し、確定させる業務のことを言います。
企業で働いている人は、毎月の給与から「所得税」が天引きされていると思います。会社が給与を支払う際、従業員の給与などから所得税を徴収することを「源泉徴収」と言います。源泉徴収額は概算のため、後々過不足金額が発生します。本来徴収が必要な1年分の所得税総額を再計算し、これまで源泉徴収した合計額と、あらためて照らし合わせて「過不足金額」を調整することが「年末調整」です。もし源泉徴収額に余分があった場合は差額を還付し、不足があれば追加徴収されるという仕組みになります。
わかりやすく言うと、「前もって毎月給与からおおよその所得税を天引きしておくため、年末に正確な額を計算して、多くとりすぎていたら返す、足りなかったら追加で徴収する」という内容になります。
「なぜ最初から毎月正確な金額で天引きしないのか?なぜ年末に調整するのか?」と疑問に思う方もいるかもしれません。概算の金額でしか源泉徴収ができない理由としては、所得税は1年間(1月1日〜12月31日)の所得に基づいて税率・税額が変わってくることが挙げられます。そのため、年末にならないと個別の税額を確定することができません。また、1年間の途中で給与金額の変更や転職、扶養に関わる家族構成の変更などが生じた場合や、給与や賞与の控除以外にも社会保険料などの各種保険料を支払っている場合にも、過不足金が発生する可能性があります。
これらの理由から、個人の税額を確定する作業として「年末調整」を行う必要があるのです。
なぜ源泉徴収が必要なのか
従業員の給与を支払う事業者であれば、源泉徴収を行う必要があります。
企業に雇用されていない自営業や個人事業主の場合、確定申告をして前年度の税金を納めます。そのため、納税分として得られた収入の一部を確保しておかねばなりません。
事業者が源泉徴収を行うことで、従業員は確定申告をする必要がなくなります。また、毎月の給与から少額ずつ所得税を納めることができるため、一度に多額の納税をする必要はありません。国にとっても「安定的な税収を得る」ことや、「確実に所得税を徴収する」ことにつながることから、源泉徴収が行われています。
年末調整の対象者は?
企業が給与を支払っている全ての従業員が、年末調整の対象者です。正社員だけではなく、パートタイマーやアルバイトも対象者になります。派遣社員に関しては、雇用している派遣元が年末調整を実施します。
12月に年末調整を行うのは、その年の「扶養控除(異動)申告書」を提出している人、1年を通して勤務している人や、年の途中で就職し年末まで勤務している人になります。ただし、以下のケースに該当する場合には、年末調整の対象から除外されます。
- 従業員・役員問わず、給与所得が2,000万円を超える者
- 災害減免法という法律によって、所得税の支払い猶予や還付をすでに受け取っている者
- 副業などで2カ所以上の収入源があり、他の給与支払者に扶養控除等(異動)申告書を提出している者
- 非居住者
- 日雇労働者など、継続して雇用されていない者
年末調整の対象から外れた場合は、確定申告が必要になります。
また、以下のケースに該当した場合には、12月以外でも年末調整の対象になります。
- 海外支店などに転勤した場合
- 死亡により退職した場合
- 著しい心身の障害によって退職した場合
- 12月の給与等の支払いを受けた後に退職した場合
- パートタイマーとして働いており、その年に支払われる給与総額が103万円以下の方が退職した場合
年末調整を行わずに従業員から正しい税額の徴収をしない場合や、年末調整を実施したにも関わらず追加徴収を納付しなかった場合などは罰則があります。もし、従業員側の都合で、書類の紛失や提出の遅れがあった場合は、従業員本人が確定申告をすることで対応が可能です。
年末調整の際に提出が必要な書類は?
年末調整で必要になる書類は、大きく分けると「従業員からの提出書類」と「会社から税務署や市町村に提出する書類」の2種類になります。
従業員からの提出書類
「従業員からの提出書類」は主に以下の3つです。
「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」
所得税の扶養控除等の控除を受けるための書類です。扶養控除とは、簡単に言うと「養う家族がいる場合、税金の負担を軽減できる」という制度のことを言います。
「給与所得者の保険料控除申告書」
生命保険料控除とは、生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料などを支払った場合に受けられる所得控除のことです。保険控除申告書に控除証明書等の書類を添付する必要があります。
「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」
給与所得者が基礎控除を受けるために必要となる書類です。基礎控除とは、すべての納税者を対象に無条件で差し引く所得控除のことを言います。
これら書類を原則として従業員本人に記入してもらい、年末調整の計算をし、従業員ごとの源泉徴収票を作成します。
会社から税務署や市町村に提出する書類
「会社から税務署や市町村に提出する書類」は、以下の4種類の書類です。
- 支払調書
- 法定調書合計表
- 源泉徴収票
- 給与支払報告書
これらの書類は、年末調整の計算が完了した後作成します。
年末調整の流れ
年末調整の大まかな流れは以下の3ステップになります。
【STEP1・11月頃】従業員に必要な書類を配布・説明・回収する
前項で紹介した必要書類(給与所得者の扶養控除等(異動)申告書など)を配布します。記入が必要な箇所に関しては、独身や既婚、扶養家族の有無などによって異なります。ある程度説明を行ったり、記入事例の資料などを添付したりするとスムーズです。
従業員がそれぞれ内容を記入し、生命保険料控除証明書など、各々が必要な添付書類を添えて提出してもらいます。きちんと提出期限を決めておき、間に合うように回収しましょう。
【STEP2・12月〜翌1月頃】年末調整に必要な徴収額の再計算を行う
従業員からの提出が必要な書類の回収と並行して、さまざまな再計算を行います。再計算が必要になるのは以下の項目です。
A)給与総額と徴収額の計算
対象となる従業員の、1月〜12月の間に支払われた給与や賞与の総額と、源泉徴収した徴収税額の総額を計算します。年の途中で入社した従業員がいる場合、その年に前職での収入があれば、前職分も年末調整の対象になります。この場合、前職の源泉徴収票が必要になるため、入社時に提出してもらっておくと良いでしょう。
B)給与所得控除後の金額の計算
「給与所得控除」とは、会社員の収入から差し引かれる控除のことです。会社員にも必要経費があると見なすことで、従業員の所得税などを計算する際、一定額を法律で定められた必要経費として給与から差し引くことができます。Aで計算した給与総額に応じて給与所得控除額を計算し、給与総額から差し引くことで、給与所得控除後の金額を計算します。
C)各種所得控除の合計額の計算
従業員から提出された控除証明書等をもとに、各種所得控除額を正しく計算します。主な証明書は以下の6種類です。
- 扶養控除等(異動)申告書
- 配偶者特別控除申告書
- 自社の給与・賞与(ボーナス)からの社会保険料控除額の情報
- 従業員が加入する生命保険・地震保険などの保険料控除証明書
- 給与・賞与以外で支払った社会保険料の保険料控除証明書
- 住宅ローン控除のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書
D)課税給与所得金額の計算
「課税給与所得金額」とは、納めるべき所得税を計算するためのもとの金額です。BからCを差し引くことで、課税給与所得金額を計算します。
E)算出所得税額の計算
Dで計算した課税給与所得金額から、国税庁の公式サイト「算出所得税額の速算表」を参考にして、算出所得税額を計算します。
F)住宅ローン控除額の控除と年調所得額の計算
住宅を購入して1年目の場合は、年末調整の対象とならない確定申告の必要があります。2年目以降からは、年末調整での住宅ローン控除が可能です。Eで計算した算出所得税額から、住宅ローンの控除額を差し引いたものが年調所得税額です。
【STEP3・1月末までに】過不足分を給与で調整し、税務署に源泉所得税を納付する
年調所得税額の計算が済んだら、過不足分を給与で調整します。調整した結果を踏まえ、税務署や市町村に提出が必要な書類を作成します。
G)年調年税額の計算と過不足額の還付・徴収
Fで計算した年調所得税額に102.1%をかけると「年調年税額」が算出されます。Aで算出した源泉徴収税額の総額が年調年税額より多い場合は差額を還付します。反対に、年調年税額より少ない場合は差額を徴収することになります。
H)所得税徴収高計算書の作成
税務署への提出が必要となる所得税徴収高計算書を、Gを反映させて作成します。
I)源泉所得税の納付
Hで作成した所得税徴収高計算書の提出とともに、1月10日(納期の特例を受けている場合は1月20日)までに「源泉徴収税」を税務署に納付します。なお、納期の特例を申請している場合は、半年分の源泉徴収税を納付します。また、年末調整の結果、還付金の調整が確認できれば、差額分は源泉徴収税で調整されます。
J)源泉徴収票・法定調書合計表・給与支払報告書の作成と提出
年末調整後に行う処理として、従業員へ精算した後には以下3つの書類の作成・提出を行います。
- 源泉徴収票(給与支払報告書)を作成
- 法定調書合計表と、必要条件に該当する従業員の源泉徴収票を税務署へ提出
- 給与支払報告書を各従業員の所在地となる市区町村へ提出
なお、会社は1月31日までに、源泉徴収票を本人に交付する必要があります。
一人法人の年末調整について
「年収が103万円以下だと所得税は課税されない」と言う話を聞いたことがありませんか。所得税は1年間の収入から「基礎控除」と「給与所得控除」を引き、残った金額に所得税率をかけて算出します。基礎控除は48万円、 給与所得控除額は最低55万円ですから、収入金額が103万円以下で、ほかに所得がなければ所得税はかかりません。
では、一人法人で役員報酬が103万円未満の場合であれば、年末調整は不要なのでしょうか。
年収が100万円超の場合
例えば、社会保険料控除後の課税所得が月に約85,000円だったとします。85,000かける12ヶ月で年収は約102万円です。この場合、所得税は年収103万円以下であるため非課税です。しかし、市区町村により若干異なりますが、住民税は年収100万円超から課税されます。このような場合は年末調整をすることで生命保険控除や地震保険料控除を活用した方が良いと言えるでしょう。
また、独立1年目などの場合は前職での収入がある可能性もあります。年末調整では、前職の収入も含めて年間の所得税の金額を確定計算します。そのため、前職の給与から源泉徴収されている所得税が年末調整の計算で還付されることとなります。こちらももしかすると生命保険控除等を活用することで非課税になるかもしれません。
このような場合は、源泉所得税が0円でも、税務署への法定調書合計表と源泉所得税の納付書は提出が必要です。また前職を含めた年収が150万円を超えている場合には、源泉徴収票も必要になります。給与支払報告書及び総括表も対象者分を、市区町村に提出します。
源泉徴収をしていない場合
役員報酬が少額なため、給与から源泉徴収をしていないと言うケースもあるかもしれません。源泉徴収を行なっていない場合、源泉所得税の還付もされないため年末調整をする必要性がないように感じます。
しかし、会社の年末調整は、源泉所得税を還付するためだけではありません。税務署や市区町村にも住民税などを算出するための書類を提出する必要があります。そのため、「毎月の給与計算で源泉所得税がない=年末調整をしなくても良い」というわけではないのです。
なお、収入から社会保険料などの控除額を差し引いた課税所得が月88,000円未満の場合は、源泉徴収は不要です。ただし、2か所以上から給与をもらっていて、別の会社で「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している場合は、88,000円未満であっても源泉徴収されます。
役員報酬が0円の場合
役員報酬が0円の場合でも、税務署への法定調書合計表と源泉所得税の納付書は提出する必要があります。
役員の場合、前職を含めた年収が150万円以下であれば、源泉徴収票の提出は不要です。また、役員報酬が0円であれば給与支払い対象者ではないため、給与支払報告書も提出不要になります。
乙欄で源泉徴収している場合
副業で起業している一人法人の場合、勤務先では「甲欄」、自分の会社の役員報酬は「乙欄」で源泉徴収することもあります。「甲」欄は「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している方に適用され、「乙」欄は「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出していない方に適用されます。
このようなケースでは、源泉所得税の還付計算という意味での年末調整は不要です。しかし、税務署への法定調書合計表と源泉所得税の納付書、市区町村へ給与支払報告書及び総括表の提出が必要になります。また源泉徴収票に関しても、前職を含めた年収が50万円を超えている場合には必要になることを覚えておきましょう。
年末調整で気をつけたいこと、注意点など
年末調整は短期間で大量の書類を処理しなければならないため、時間的な余裕を持つことが大切です。
従業員から回収した書類に記入などの不備があったり、添付書類の漏れがある可能性もあります。そのような場合は、一度従業員に差し戻して修正してもらう、改めて添付書類を揃えるなどの対応をしてもらう必要があります。
また、作成・確認する書類の量が多いため、どうしても処理誤りなどもどうしても生じやすくなります。できるだけ時間に余裕を作り、複数人でダブルチェックをするなどできることが望ましいと言えます。
見落としがちなことを紹介するため、ぜひ参考にしてみてください。
扶養控除等申告書は前年度の情報のままになっていないか確認する
実務上、扶養控除等申告書を基に被扶養者の人数などをカウントし、年末調整に反映させたり翌年からの所得税控除額を決定させたりすることになります。前年度の情報をそのまま流用してしまうと、控除額等に相違が出てしまい、トラブルの元になりかねません。
特に被扶養者の人数が変わることは多く、「年度途中に扶養家族が結婚した」、「扶養だった配偶者の年収が条件の範囲を超えてしまった」、「家族が障がい者に該当することになった」、「離婚や家族の死亡」など理由もさまざまです。また、子供や親などを扶養している場合、被扶養者が何の控除対象になるかは年齢によって変わる部分もあります。被扶養者が「今年何歳になる、来年何歳になる」というのはチェックしておくと良いでしょう。
▼チェックする項目としては、以下を確認することをオススメします。
- 従業員の配偶者や扶養親族の有無
- 従業員の配偶者の収入
- 扶養家族や扶養親族の年齢
- 子供の就職の有無
- 寡婦、寡夫であるかどうか
- 算出結果が間違っていないか
育児休暇中の従業員も年末調整は必要
育児休業を取得している従業員の年末調整は企業が行います。男性の育児休暇取得者も、今後増える可能性が高いため、忘れないように注意が必要です。
休業中の従業員の年末調整には、扶養控除等申告書が必要になるため、郵送等の手間や時間がかかることを頭に入れておきましょう。
なお、育児休業を申請せずに従業員が退職した場合は、年末調整は行いません。そのため、該当の従業員には個人で確定申告をしてもらう必要があります。
まとめ
年末調整は比較的短い期間で、従業員の税金に直結する作業を行うことになります。また、法改正の影響を受けやすく、毎年のように何らかの改正が行われ、その度に申告書の様式等も変更されてきました。マイナンバー制度の導入をはじめ、配偶者控除および配偶者特別控除の改正などでも、申告書の様式だけでなく計算方法の変更等も行われてきました。法改正が実施される際には特に注意して、従業員に説明できるように、年末調整を行う担当者自身が手続きの流れや改正点を事前にしっかりと理解しておきましょう。
小規模法人で源泉徴収をしていない場合でも、広い意味での年末調整は必要になります。副業で法人経営をしていて本業がある場合など、時間のかかる作業はできるだけ避けたいけれど、できるだけ経理周りに関する予算も抑えたいという考えの経営者も少なくないのではないでしょうか。わかることが増えれば、その分自分で処理できることも増えるため、ぜひ年末調整についても正しい知識を身につけましょう。
しかし、従業員の数が増えてくると、年末調整の手間も段々と増えてきます。場合によってはプロに相談した方が、手間とコストのバランスが取れるかもしれません。全てを自分で行うのではなく、必要な時に必要なところに予算を充てられるようにしておくと良いですね。
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