株式会社や合同会社などの法人は、年間を通じ事業で利益を得た場合に、所得に応じた額の法人税を納めなければなりません。経営者の中には、可能な限り税負担を抑えて「事業に使えるお金を増やしたい」、「頑張ってくれている社員に還元したい」と考えている方も多いのではないでしょうか。故意に納税の義務を怠ることは脱税となり違法ですが、税金を合法的に節税することは可能です。計画的に節税に取り組むことで、事業の継続や向上・発展につながるため、ぜひ無理のない範囲で取り組みましょう。この記事では、すぐに実践できる法人税の節税方法について、わかりやすくご紹介します。
法人税の節税をする必要性とは?
法人に課される主な税金は、「法人税」、「地方法人税」、「法人住民税」、「法人事業税」等があり、主に会社の利益(所得)を基に決まった税率で課されます。利益が多ければ多いほど法人税も増えるため、場合によっては法人税が経営を圧迫してしまう可能性もあります。今期に比べ前期や前々期の利益が大きかった場合、特に法人税の負担を大きいと感じることになるでしょう。
そのため、経営を安定させるためには、できるだけ法人税を抑えることが鍵となります。とはいえ脱税は違法ですから、あくまでも法律を遵守したうえで節税をする必要があります。税金対策を正しく行えば、合法的に納める税金を減らせます。法人税の主な節税方法の軸となるのは以下の2点です。
- 益金を減らし、損金を増やすこと
- 特別控除の制度を利用すること
課税対象となる所得が減ることは、結果的に法人税の節税をすることにつながります。そのため、益金を減らすか損金を増やすといった対策が必要になります。また、特別控除のような優遇制度を利用できれば、納める税額を大きく減らすことが可能です。有効な税金対策をするためには、さまざまな制度に関する知識を増やすことが重要になります。
法人税を節税する11の方法
前述したとおり法人税を合法的に節税するためには、所得を圧縮する必要があります。法人税は会社の利益(所得)に対してかかるため、所得が減ればその分法人税も減るからです。このことを踏まえたうえで、実践しやすい法人税の節税方法を具体的に解説します。
1.赤字を繰り越す
青色申告法人であれば、赤字を繰り越すことで法人税の節税ができます。決算が赤字となっている場合、その赤字分を黒字になった年度の所得と相殺することが可能です。黒字によってできたプラス分で赤字のマイナス分を減らせるため、会社の利益が減ることになり法人税を節税できます。この節税方法は「欠損金の繰越控除」として認められており、赤字の繰越しは法人の場合最大で10年可能です。法人税が大きくなりそうな年度を予測できる場合など、その年度に備えて赤字を残しておくのも良いでしょう。
また、一定の要件を満たすことができれば「欠損金の繰り戻しによる還付」を受けられます。欠損金の繰り戻しによる還付とは、黒字の翌事業年度が赤字になった場合に、前事業年度の黒字にさかのぼり赤字と相殺することで、法人税の還付を受けられるという制度です。ただし、赤字であっても法人住民税の均等割は課税されるため注意しましょう。
2.役員報酬を増額する
法人税の節税方法として、役員報酬を損金計上することも挙げられます。法人の場合、経営者は役員報酬を受け取ります。賞与を含む役員報酬は、定期同額給与などの一定の要件を満たせば、経費のように会社の利益から差し引くことが可能です。
ただし、法人税を減らすために役員報酬を増やすと役員個人の所得税や社会保険料が増加し、トータルでの納税額はむしろ増額してしまうケースがあります。そのため、役員報酬は税理士などの専門家に相談し適正な金額を決めることで、会社と個人の負担のバランスをとることが重要です。
また、役員報酬の金額は1年間固定が原則であり、金額の決定や増減させる際には株主総会で決定し、議事録を作成する必要があります。さらに、役員報酬額が変更できるのは株主総会後1か月以内になります。見直す場合は早めの検討が必要です。
▼役員報酬に関して詳しくはこちらの記事も併せてお読みください。
3.福利厚生を充実させる
雇用保険や労災保険に加入する以外にも、社員の健康診断や慰安旅行の実施をするなど、福利厚生を充実させることで、かかった費用を経費として計上することも節税になります。ただし、社員旅行を福利厚生費とみなすには、「会社負担金額がひとり10万円以内」「4泊5日以内」「従業員の50%以上が旅行に参加」といった、所定の条件を満たさなければいけません。また、従業員の健康診断も同様に、「従業員全員を対象にしていること」「かかった費用を会社が医療機関に直接支払うこと」など、満たすべき条件があります。
そのほか、社宅にかかる家賃も福利厚生費になるため、大幅な節税が可能です。社宅に関しては会社所有の物件を社宅にするだけでなく、経営者や従業員の自宅を会社で借り上げて社宅にするなどの方法があります。
会社が賃貸物件を借りて、経営者や従業員に社宅として貸した場合、会社が支払った家賃と入居者から受け取った賃貸料相当額の差額分を会社の経費として計上できます。社宅扱いにするためには、「会社名義で賃貸物件を借りること」と、「入居する経営者や従業員から一定の賃料(賃貸料相当額)を受け取ること」が必要になります。社宅で家賃の費用を抑えることができれば、従業員にとってもメリットがあると言えるでしょう。
注意点として、経営者や従業員の賃料が無料やあまりに低すぎる場合、現物支給として課税される可能性があります。賃料の設定は適切に行いましょう。
4.未払費用を経費にする
今期中に発生した費用のうち、支払が来期になるものを「未払費用」として経費にできます。期末決算時に未払費用を計上すれば、その期の所得を減らして税金対策が可能です。以下のような費用は未払費用として計上できます。
会社負担分の社会保険料
社会保険料は基本的に来月支払い分を給与から天引きします。
3月決算の場合、3月の給与で天引きした社会保険料の支払は4月になりますが、このような際に未払費用として計上できます。
従業員の給与・賞与
従業員の給与はほとんどの場合、締め日と支払日にずれがあります。例えば、20日が締め日で、支払いが翌月25日だとします。決算月が3月であった場合は、3月20日で締めた給与が4月25日支払いになるため、年度をまたぐことになってしまいます。このような場合は未払費用として計上が可能です。業績が良かったときは、就業規則に則って従業員に決算賞与を支給することで、期末に未払費用を計上でき節税に繋がります。
固定資産税
固定資産税は、賦課が決定した時点で、その事業年度の税額を未払費用にすることが可能です。納付した日に費用として計上した方が経理処理はシンプルですが、節税を意識するのであれば、納税通知書が届いた際に未払費用として計上すると良いでしょう。
5.短期前払費用を活用する
毎年継続して支払うことが確定しているオフィスの賃貸料や備品のリース料などは、1年分の賃貸料を前払いして「短期前払費用」として損金計上可能です。また、基本的には「一括で前払いすることによって節税する」という形であり、翌年以降も一年分を一括で損金計上する必要があります。契約をして1年目であれば大きな節税になりますが、永久節税ではなく繰延節税として考えましょう。
短期前払費用として計上できる費用は以下のとおりです。
- 建物や土地の賃料
- 保険料
- 備品・システムのリース料
- サービス使用料
- 年間購読料(電子書籍のみ)
短期前払費用には「役務(サービスや場所の利用など)の提供を受けるために支出した費用」が該当するため、物品の引き渡しが発生する場合は該当しません。
6.保険・共済に加入する
「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」に加入することでも、節税につながります。
経営セーフティ共済とは、取引先の倒産による経営難や連鎖倒産を防ぐための制度で、掛金は損金または必要経費に算入できる税制優遇を受けられます。無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入れすることも可能です。
また、取引先の事業者が倒産し、売掛金などの回収が困難になった場合には、その事業者との取引の確認が済み次第、すみやかにお金を借りられます。取引先事業者が倒産していなくても、共済契約者の方が臨時に事業資金を必要とする場合に、解約手当金の95%を上限として借入れできる一時貸付金制度もあります。保険の加入は任意ですが、節税も兼ねて加入しておくと安心だと言えるでしょう。
なお、養老保険や年金保険に加入すれば、支払う保険料の一部を損金として計上できます。保険料の支払いは発生しますが、福利厚生を充実させながら節税をできる手段になります。節税額は保険によって異なっておりますので、詳細は税理士等にご相談ください。
7.抱えている在庫を処分する
在庫が発生する業種で会社の倉庫に眠っている在庫や、帳簿上の数字だけの存在になっている在庫がある場合は、積極的に処理をすることで節税ができます。不要な在庫などの資産は、処分してしまうと帳簿に載せる必要がなくなり、さらに処分費用を損金として計上できるため、節税につながるのです。原価より安く売却した場合は売却損を、廃棄処分した場合は除却損(廃棄損)を損金として計上可能です。
8.社用車を準備する
経営者が所有する自家用車を社用車に転用することで、自家用車として使用していた減価償却費相当額を取得金額から引いた分を、減価償却費として経費に計上できます。社用車の登録を行うことで以下の費用が発生します。
- 車体の取得費
- 維持費
- 燃料費
- 保険料
これらの費用はすべて経費として計上できるため、社用車が増えればその分損金が増えて法人税を節税しやすくなります。ただし、台数が増えればその分費用もかさんでしまいます。節税できるからと言って増やしすぎると反対に負担になってしまうため、必要な台数を適切に社用車として登録しましょう。
なお、社用車をプライベートでも使用する場合は、社用車の利用規程を作成し、一定の利用料を会社に支払うなどのルールを決めておく必要があります。公私の区別をはっきりさせるようにしましょう。
9.取引先との飲食費や交際費を経費にする
取引先の接待時にかかった飲食などの交際費等を経費として計上することも節税につながります。領収書等はきちんと保管するようにしましょう。ただし、内容によっては経費と認められない場合もあるため注意が必要です。
また、損金計上できる交際費の金額には、大企業と中小企業で限度額が定められていますので、詳しくは国税庁のWebサイト「No.5265 交際費等の範囲」にてご確認ください。
10.30万円未満の消耗品の購入費用を損金計上する
青色申告をしている中小企業であれば、30万円未満の消耗品を購入した場合、かかった金額を一括で損金として計上できます。この制度を「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」と言います。
計上するには一定の要件があるため、詳しくは国税庁のWebサイト「No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」をご確認ください。
11.貸倒引当金を損金として計上する
回収ができない売掛金や不良債権がある場合は、節税できる可能性があります。
回収が見込めない債権を計上する勘定科目が「貸倒引当金」です。貸倒引当金として計上した分は損金になり、会社の所得が圧縮できます。ただし、すべての不良債権が計上できるわけではないので注意しましょう。
法人税の節税をする際の注意点
節税の対策をすることには多くのメリットがあります。ただし、節税ばかりに気を取られると、会社にとってよくない事態を招く恐れもあります。法人税を節税する際の注意点を3つ紹介します。注意点もしっかりと確認して、適切な税金対策を心がけましょう。
節税を意識するあまり資金繰りが悪化しないようにする
過度に節税の対策をすると、必要以上に資金が流出して、資金繰りが悪化する恐れがあります。節税はお買い物ポイントのようなもので、ポイントを貯めたいばかりに無駄な買い物をするのは本末転倒です。税金を減らすことばかりに気を取られ、不要である資産を購入したり無理に雇用を増やしたりするのはやめましょう。「必要な出費をすることで、少しでも税金が軽くなれば良いな」という程度に捉えておくと良いでしょう。
税制優遇制度を利用するためには、さまざまな条件が設けられています。企業状況や経営状態に合わせて、無理なく実践できる制度を選ぶことが大切です。必要以上にお金を使うと、節税の意味がなくなってしまうことを念頭に置いておきましょう。
会社の将来や経営状況とのバランスを考える
前述したとおり、法人税を合法的に節税するには、所得を圧縮する必要があります。節税に関して利益を減らすことは、有効な方法です。ただし、税金対策として利益を圧縮した場合、経営状態が良くないと判断され社会的信用が落ちてしまう危険性があります。
社会的信用が低いと、金融機関から融資を受けにくくなったり、取引先から依頼される仕事が減少したりといったデメリットが発生します。特に、金融機関から融資を受けられなくなった場合、事業の拡大や新しい事業を始める際に、まとまった資金を調達できなくなります。法人税の節税では目先の利益だけで考えず、会社の将来や経営状況などとのバランスを考えながら、総合的に判断することが重要です。
法に触れない範囲での節税に努める
行き過ぎた税金対策は、知らない間に法に触れてしまう可能性があります。その場合、脱税と判断されかねません。脱税とは、偽りや不正行為などによって故意的に税金を支払わないことを言います。
また、故意ではなくともミスによって過少申告や無申告などが発覚した際には、加算税が課されます。さらに隠蔽などが確認できる場合は、重加算税として最大40%課税されるため要注意です。節税することは大切ですが、合法の範囲内であるか、申告漏れはないかなど十分な確認を行うことが重要です。判断が難しい場合は、税理士の力を借りると安心です。
まとめ
売上高が全く同じ額だったとしても、適切な節税の対策を行うことにより納税額は変わってきます。法人税を節税することで事業に使える金額が増えたり、福利厚生を充実させたりすることが可能です。税金対策は方法を間違えると、効果を得られないばかりか脱税になってしまう恐れがあるため、不安がある場合は税務の専門家である税理士に相談することをオススメします。税理士に相談すれば、自社に合った節税方法が知りたいという場合に、有益なアドバイスが受けられます。顧問契約をするのは難しい場合も、お得な料金で節税の相談を行っている税理士もいます。また、税務署であれば無料相談も可能です。ぜひ一度検討してみてはいかがでしょうか。
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